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ルーズベルトニ与フル書:市丸利之助少将 [睡夢庵 日々徒然]

【ルーズベルトニ与フル書:市丸利之助少将】

これを書き残した市丸利之助少将は硫黄島の戦いに海軍第27航空戦隊司令官として参戦、栗林大将と共に最後の突撃を敢行し散華された方です。

これは先の大東亜戦争末期、硫黄島の戦いの中で書き残されたものですが、彼は米軍が日本兵の遺体の所持品確認を行っている事を知り、この書を残しました。 和文の方は通信将校村上大尉が、英文のものは二十七航空戦隊参謀赤田中佐が身に付けて最後の突撃に臨んだといわれます。

昭和20年3月26日早朝日本陸海軍残存兵力約400名が第二飛行場西側のアメリカ陸軍航空軍野営地に対し夜襲を敢行しますが、その戦闘終了後残された日本兵の遺体から発見され、同年4月4日米国従軍記者エメット・クロージャーによりその発見の経緯と共に本文も本国に打電されます。 この内容は米国海軍当局の検閲後、「死に臨んだ日本の一提督の米国大統領宛の手紙」との見出しで「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」以下、新聞各紙に掲載されます。 また、戦後ベストセラーになったジョン・トーランドの「昇る太陽-日本帝国滅亡史」にも全文が紹介され有名になりました。

現在、この原本はメリーランド州アナポリスにある海軍兵学校博物館に保存されています。
フランクリン・ルーズベルトは 1945/04/12 に死去していますので、残念ながら本人がこれを目にする事はなかったでしょう。

尚、ここに述べられている内容は、戦争に至る推移を知る日本知識階級の一般的理解と心情だったと思います。 皆さんにも当時の日本人の気概を知って頂きたいと思い、取り上げる事に致しました。

市丸利之助(いちまる りのすけ 1891/09/20-1945/03/26
最終軍歴: 第二十七航空戦隊司令官(硫黄島) 海軍中将(戦死特進)
      日本海軍航空隊創成期のパイロット出身で予科練の育ての親

《口語訳》

日本海軍市丸海軍少将より「フランクリン ルーズベルト」君にこの手紙を送ります。

私は今、私自身の硫黄島での戦いを終えるに当たり、一言あなたに告げておかねばならない事があります。

日本が「ペリー」提督の下田入港を機として、広く世界と国交を結ぶ様になって約百年、この間、日本は国の進む道は難儀を極め、自ら望んでいる訳でもないのに日清、日露、第一次世界大戦、満州事変、支那事変を経て、不幸にも貴国と戦争をする事態になってしまいました。
これについて、あなた方は日本人は好戦的であるとか、これは黄色人種による禍という様な事実ではない事を言い立て謗り、或いは日本の軍閥の専断等といいます。 しかし、それは思いもよらない的外れなものと言わざるを得ません。

あなたは真珠湾の不意打ちを対日戦争開戦の只ひとつの宣伝材料としていますが、日本が自滅から逃れる為にこの様な戦争を始めざるを得ない処迄追い詰められた諸事情は、あなたが最も熟知している処だと思います。

畏れ多くも日本の天皇陛下は、皇祖皇宗建国の大詔(おおみことのり)でも明らかな様に、養正(正義)、重暉(明智)、積慶(仁慈)を主題とする「八紘一宇」ということばで表現される国家統治精神に基づき、地球上のあらゆる人々はその分に従って、夫々の郷土において睦まじく暮らし、恒久的な世界平和の確立を唯一の念願とされているに他なりません。

この事は、かって「四方の海 皆はらからと 思う世に など波風の 立ちさわぐらむ」という明治天皇の御製(日露戦争中御製)は、あなたの叔父である「セオドア・ルーズベルト」閣下を感嘆させたものであり、その事はあなた自身よく承知している事実でしょう。

我々日本人にはさまざまな階級の人がいます。 けれども私たちは様々な職業に就きながらも、その職業を通して国家統治精神、すなわち天業を援ける為に生きています。
我々軍人もまた、干戈を以ってこの天業を推し進めるために働いています。
我々は今、豊富な物量を恃みとした貴下の空軍の爆撃や艦砲射撃の下で、外形的には圧倒されていますが、精神的には充実し、心は益々明朗で、悦びに溢れています。 なぜならそれは、天業を援ける信念に燃えた日本国民の共通の心理だからですが、この心理はあなたや「チャーチル」君には理解しがたいことでしょう。 そんなあなた方の貧弱な精神を憐れみ、ここに一言諭させて貰わねばなりません。

あなた方が行っている事は白人、特にアングロサクソンによって世界の利益を独り占めにしようとし、有色人種をその野望の前に奴隷としようとするものに他ならなりません。
この目的の為に姦策を弄して有色人種を騙し、所謂「悪意のある善政」によって彼らから思考する力を奪い、無力にしょうとしてきました。
近世になり、日本があなた方の野望に抵抗して、有色人種、殊に東洋民族をしてあなた方の束縛から解放しようとすると、あなた方は日本の真意を少しも理解しようとはせず、ひたすらあなた方にとって有害な存在として、かっては友邦であった我が国を仇敵・野蛮人として公然と日本人種の絶滅を口にするようになりました。 それは、あなた方の神の意向に叶うものなのでしょうか。

大東亜戦争によって、いわゆる大東亜共栄圏が成立すれば、夫々の民族は我が国が齎す善政を謳歌し、あなた方がこれを破壊しなければ、全世界に渉る恒久的平和を招く事が出来、これは決して遠い未来のことではないのです。

あなた方は既に充分な繁栄を遂げているにもかかわらずこれにも満足することもなく、数百年来あなた方の搾取から逃れようとして来た、憐れむべき人類の希望の芽を何故若葉の内に摘み取ってしまおうとするのでしょうか。
只東洋のものを東洋に返すいうだけではありませんか。 あなた方はどうしてこうも貪欲で狭量なのでしょうか。

大東亜共栄圏の存在は、いささかもあなた方の存在を脅かすものではありません。 むしろ世界平和の一翼として世界人類の安寧と幸福を保障するものであり、日本の天皇の真意はこれ以外にはないことをあなた方に理解する雅量を持って貰いたいと希望しているだけなのです。

欧州の情勢を見ても相互の無理解による人類の闘争が、どれだけ悲惨なものか痛嘆せざるを得ません。
今ここで「ヒットラー」総統の行動の是非を云々する事は控えますが、彼が第二次世界大戦を引き起こした原因が、第一次大戦終結に際して、その開戦の責任一切を敗戦国ドイツ一国に押し付け、極端な圧迫を加えたあなた方の戦後処理に対する反動である事実は看過出来ません。

あなた方の善戦により「ヒットラー」を倒す事には成功しましたが、どうやって「スターリン」を首領とする「ソビエットロシア」と協調するつもりなのですか?

およそ世界が強者の独占するものであるならば、永久に闘争を繰り返し、何時まで経っても世界人類に安寧と幸福の日が訪れる事はありません。
あなた方は今、世界制覇の野望を一応は実現しようとしています。 あなた方は、きっと今得意になっていることでしょう。
しかしながらあなたの先輩である「ウイルソン」大統領はその得意の絶頂で失脚したのです。

願わくば、私の言外の意を組んで頂き、その轍を踏むことがないようにして頂きたいものです。

《原文》

日本海軍、市丸海軍少将、書ヲ「フランクリン ルーズベルト」君ニ致ス。
我今、我ガ戦ヒヲ終ルニ当リ、一言貴下ニ告グル所アラントス。
日本ガ「ペルリー」提督ノ下田入港ヲ機トシ、広ク世界ト国交ヲ結ブニ至リシヨリ約百年、此ノ間、日本ハ国歩難ヲ極メ、自ラ慾セザルニ拘ラズ、日清、日露、第一次欧州大戦、満州事変、支那事変ヲ経テ、不幸貴国ト干戈ヲ交フルニ至レリ。
之ヲ以テ日本ヲ目スルニ、或ハ好戦国民ヲ以テシ、或ハ黄禍ヲ以テ讒誣シ、或ハ以テ軍閥ノ専断トナス。思ハザルノ甚キモノト言ハザルベカラズ。
貴下ハ真珠湾ノ不意打ヲ以テ、対日戦争唯一宣伝資料トナスト雖モ、日本ヲシテ其ノ自滅ヨリ免ルルタメ、此ノ挙ニ出ヅル外ナキ窮境ニ迄追ヒ詰メタル諸種ノ情勢ハ、貴下ノ最モヨク熟知シアル所ト思考ス。
畏クモ日本天皇ハ、皇祖皇宗建国ノ大詔ニ明ナル如ク、養正(正義)、重暉(明智)、積慶(仁慈)ヲ三綱トスル、八紘一宇ノ文字ニヨリ表現セラルル皇謨ニ基キ、地球上ノアラユル人類ハ其ノ分ニ従ヒ、其ノ郷土ニ於テ、ソノ生ヲ享有セシメ、以テ恒久的世界平和ノ確立ヲ唯一念願トセラルルニ外ナラズ。
之、曾テハ「四方の海 皆はらからと思ふ世に など波風の立ちさわぐらむ」ナル明治天皇ノ御製(日露戦争中御製)ハ、貴下ノ叔父「テオドル・ルーズベルト」閣下ノ感嘆ヲ惹キタル所ニシテ、貴下モ亦、熟知ノ事実ナルベシ。
我等日本人ハ各階級アリ。各種ノ職業ニ従事スト雖モ、畢竟其ノ職業ヲ通ジ、コノ皇謨、即チ天業ヲ翼賛セントスルニ外ナラズ。
我等軍人亦、干戈ヲ以テ、天業恢弘ヲ奉承スルニ外ナラズ。
我等今、物量ヲ恃メル貴下空軍ノ爆撃及艦砲射撃ノ下、外形的ニハ退嬰ノ己ムナキニ至レルモ、精神的ニハ弥豊富ニシテ、心地益明朗ヲ覚エ、歓喜ヲ禁ズル能ハザルモノアリ。
之、天業翼賛ノ信念ニ燃ユル日本臣民ノ共通ノ心理ナルモ、貴下及「チャーチル」君等ノ理解ニ苦ム所ナラン。 今茲ニ、卿等ノ精神的貧弱ヲ憐ミ、以下一言以テ少ク誨ユル所アラントス。
卿等ノナス所ヲ以テ見レバ、白人殊ニ「アングロ・サクソン」ヲ以テ世界ノ利益ヲ壟断セントシ、有色人種ヲ以テ、其ノ野望ノ前ニ奴隷化セントスルニ外ナラズ。
之ガ為、奸策ヲ以テ有色人種ヲ瞞着シ、所謂悪意ノ善政ヲ以テ、彼等ヲ喪心無力化セシメントス。
近世ニ至リ、日本ガ卿等ノ野望ニ抗シ、有色人種、殊ニ東洋民族ヲシテ、卿等ノ束縛ヨリ解放セント試ミルヤ、卿等ハ毫モ日本ノ真意ヲ理解セント努ムルコトナク、只管卿等ノ為ノ有害ナル存在トナシ、曾テノ友邦ヲ目スルニ仇敵野蛮人ヲ以テシ、公々然トシテ日本人種ノ絶滅ヲ呼号スルニ至ル。之、豈神意ニ叶フモノナランヤ。
大東亜戦争ニ依リ、所謂大東亜共栄圏ノ成ルヤ、所在各民族ハ、我ガ善政ヲ謳歌シ、卿等ガ今之ヲ破壊スルコトナクンバ、全世界ニ亘ル恒久的平和ノ招来、決シテ遠キニ非ズ。
卿等ハ既ニ充分ナル繁栄ニモ満足スルコトナク、数百年来ノ卿等ノ搾取ヨリ免レントスル是等憐ムベキ人類ノ希望ノ芽ヲ何ガ故ニ嫩葉ニ於テ摘ミ取ラントスルヤ。
只東洋ノ物ヲ東洋ニ帰スニ過ギザルニ非ズヤ。
卿等何スレゾ斯クノ如ク貪慾ニシテ且ツ狭量ナル。
大東亜共栄圏ノ存在ハ、毫モ卿等ノ存在ヲ脅威セズ。却ッテ、世界平和ノ一翼トシテ、世界人類ノ安寧幸福ヲ保障スルモノニシテ、日本天皇ノ真意全ク此ノ外ニ出ヅルナキヲ理解スルノ雅量アランコトヲ希望シテ止マザルモノナリ。
飜ッテ欧州ノ事情ヲ観察スルモ、又相互無理解ニ基ク人類闘争ノ如何ニ悲惨ナルカヲ痛嘆セザルヲ得ズ。
今「ヒットラー」総統ノ行動ノ是非ヲ云為スルヲ慎ムモ、彼ノ第二次欧州大戦開戦ノ原因ガ第一次大戦終結ニ際シ、ソノ開戦ノ責任ノ一切ヲ敗戦国独逸ニ帰シ、ソノ正当ナル存在ヲ極度ニ圧迫セントシタル卿等先輩ノ処置ニ対スル反撥ニ外ナラザリシヲ観過セザルヲ要ス。
卿等ノ善戦ニヨリ、克ク「ヒットラー」総統ヲ仆スヲ得ルトスルモ、如何ニシテ「スターリン」ヲ首領トスル「ソビエットロシヤ」ト協調セントスルヤ。
凡ソ世界ヲ以テ強者ノ独専トナサントセバ、永久ニ闘争ヲ繰リ返シ、遂ニ世界人類ニ安寧幸福ノ日ナカラン。
卿等今、世界制覇ノ野望一応将ニ成ラントス。卿等ノ得意思フベシ。然レドモ、君ガ先輩「ウイルソン」大統領ハ、其ノ得意ノ絶頂ニ於テ失脚セリ。
願クバ本職言外ノ意ヲ汲ンデ其ノ轍ヲ踏ム勿レ。

《英文》

A Note to Roosevelt
Rear Admiral R. Ichimaru of the Japanese Navy sends this note to Roosevelt.
I have one word to give you upon the termination of this battle.
Approximately a century has elapsed since Nippon, after Commodore Perry’s entry to Shimoda, became widely affiliated with the countries of the world. During this period of intercourse Nippon has met with many national crises as well as the undesired Sino-Japanese War, Russo-Japanese War, the World War, the Manchurian Incident, and the China Incident. Nippon is now, unfortunately, in a state of open conflict with your country.
Judging Nippon from just this side of the screen you may slander our nation as a yellow peril, or a blood thirsty nation or maybe a protoplasm of military clique.
Though you may use the surprise attack on Pearl Harbour as your primary material for propaganda, I believe you, of all persons, know best that you left Nippon no other method in order to save herself from self-destruction.
His Imperial Highness, as clearly shown in the “Rescript of the Founder of the Empire” “Yosei” (Justice), “Choki” (Sagacity) and “Sekkei” (Benevolence), contained in the above three fold doctrine, rules in the realization of “Hakko-ichiu” (the universe under His Sacred Rule) in His Gracious mind. The realization of which means the habitation of their respective fatherlands under their own customs and traditions, thus insuring the everlasting peace of the world.
Emperor Meiji’s “The four seas of the world that are united in brotherhood will know no high waves nor wind” (composed during the Russo-Japanese War) won the appraisal of your uncle, Theodore Roosevelt as you yourself know.
We, the Nippon-jin, though may follow all lines of trade, it is through our each walk of life that we support the Imperial doctrine.
We, the soldiers of the Imperial Fighting Force take up arms to further the above stated “doctrine”.
Though we, at the time, are externally taken by your air raids and shelling backed by your material superiority, spiritually we are burning with delight and enjoying the peace of mind.
This peacefulness of mind, the common universal stigma of the Nippon-jin, burning with fervour in the upholding of the Imperial Doctrine may be impossible for you and Churchill to understand.
I hereupon pitying your spiritual feebleness pen a word or two.
Judging from your actions, white races especially you Anglo-Saxons at the sacrifice of the coloured races are monopolizing the fruits of the world.
In order to attain this end, countless machinations were used to cajole the yellow races, and to finally deprive them of any strength.
Nippon in retaliation to your imperialism tried to free the oriental nations from your punitive bonds, only to be faced by your dogged opposition. You now consider your once friendly Nippon a harmful existence to your luscious plan, a bunch of barbarians that must be exterminated.
The completion of this Greater East Asia War will bring about the birth of the East Asia Co-Prosperity Area, this in turn will in the near future result in the everlasting peace of the world, if, of course, is not hampered upon by your unending imperialism.
Why is it that you, an already flourishing nation, nip in bud the movement for the freedom of the suppressed nations of the East.
It is no other than to return to the East that which belongs to the East.
It is beyond our contemplation when we try to understand your stinted narrowness.
The existence of the East Asia Co-Prosperity sphere does not in anyway encroach upon your safety as a nation, on the contrary, will sit as a pillar of world peace ensuring the happiness of the world. His Imperial Majesty’s true aim is no other than the attainment of this everlasting peace.
Studying the condition of the never ending racial struggle resulting from mutual misunderstanding of the European countries, it is not difficult to feel the need of the everlasting universal peace.
Present Hitler’s crusade of “His Fatherland” is brought about by no other than the stupidity of holding only Germany, the loser of the World War, solely responsible for the 1914-1918 calamity and the deprivation of Germany’s re-establishment.
It is beyond my imagination of how you can slander Hitler’s program and at the same time cooperate with Stalin’s “Soviet Russia” which has as its principle aim the “socialization” of the World at large.
If only the brute force decides the ruler of the world, fighting will everlastingly be repeated, and never will the world know peace nor happiness.
Upon the attainment of your barbaric world monopoly never forget to retain in your mind the failure of your predecessor President Wilson at his heights.
-Rear Admiral Ichimaru

原典:『米国大統領への手紙』平川祐弘 新潮社


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